「平均的な県」が空飛ぶクルマで先陣を切る──静岡の社会実装から見える、地方とエアモビリティの現在地

「空飛ぶクルマ」という言葉を聞くと、都会の未来図を思い浮かべる人が多いかもしれません。ですが実際に社会実装へ動いているのは、必ずしも大都市だけではありません。むしろ地方自治体の取り組みには濃淡があり、その中で意外なほど本気度の高い地域が出てきています。今回は静岡県の事例を軸に、地方が次世代のエアモビリティ(電動垂直離着陸機=eVTOL、いわゆる空飛ぶクルマ)をどう自分ごととして進めているのかを、ドローンを学ぶ人・使う人の目線で整理してみます。
「東京・大阪がダントツ」でも、地方が先んじる領域はある
静岡県はしばしば「平均的な県」と評されますが、実は県内総生産は2022年度で全国10位(約18兆2700億円)と、平均よりむしろ上です1。それでも空飛ぶクルマの分野では、補助事業の予算規模で東京都・大阪府が先行しているのが実情です1。
興味深いのは、その差を前提にしても静岡県が独自の一歩を踏み出している点です。2025年12月の県議会で鈴木康友知事が「国の実用化支援の全国初採択を目指す」と答弁し、実際に内閣府の「未来技術社会化実装事業」へ空飛ぶクルマとして初めて2026年3月に採択されました1。2024年12月に公表した導入促進ロードマップでは、2027年度の商用運航を目指しつつ、2035年度以降を運航の成熟期と位置づけています1。
予算の大小だけが自治体の実力ではない、という好例だと私は考えています。狙いを絞り、国の枠組みにいち早く乗れば、規模で劣る地域でも先陣を切ることはできるわけです。
強みは「3次元点群データ」──ドローン測量と地続きの話
ここが、ドローンを学ぶ人にとって最も注目すべき部分です。静岡県は空飛ぶクルマの実装に向けた強みとして「3次元点群データ」を挙げています。これは緯度・経度・標高を持つ点の集まりで、県は全国に先駆けて取得を始めたとされます1。2023年8月には朝日航洋(現エアロトヨタ)と協定を結び、このデータを離着陸場の選定や航路の検討に活用しているといいます1。
点群データの取得や3D空間の解析は、まさにドローン測量やレーザー計測の得意分野です。空飛ぶクルマの航路づくりや着陸場探しといった作業は、いま現場でドローンを飛ばしている人のスキルと直結しています。エアモビリティの社会実装は、決して自分と無縁の遠い話ではない、という感覚を持っておく価値があると思います。
「乗ってみたい」をどう作るか──体験調査が示す観光需要
技術が整っても、乗客が満足しなければ事業は続きません。静岡県は2025年9月と12月に、国内在住の欧米豪などの外国人をモニターとし、ヘリコプターを空飛ぶクルマに見立てた飛行体験調査を実施しました1。9月は43人が清水港から日本平まで約10分、12月は20人が富士宮市まで約30分を体験しています1。
2026年4月に公開された結果では、支払ってもよい搭乗料金として9月は約5万円、12月は約10万円が挙がったといいます1。VIP送迎や専用ガイド、「富士山・歴史・お茶」といった名物を印象づけるプランなど、観光価値を高める方向性も示されました1。御殿場プレミアム・アウトレットでも2025年10月に、AirXや三菱地所などが中国EHang社のEH216-Sを用いたデモ飛行を行っています1。
まずは富裕層の観光から入り、需要を確かめながら育てていく。堅実な進め方だと感じます。
産業の裾野を広げる──部品・製造・雇用への波及
静岡県が力を入れるもう一つの理由が、地域産業への波及です。2025年11月には部品受注に関心のある中小企業向け説明会が開かれ、約100社が参加したと報じられています1。機体づくりの面では、2023年6月にスカイドライブがスズキと基本合意し、子会社スカイワークスが立ち上がりました1。同社は現時点で国内唯一の空飛ぶクルマ生産拠点とされ、SD-05型機の受注は2026年3月段階で425機、輸出拠点としては清水港が候補に挙がっています1。
ものづくりの土壌がある地域だからこそ、機体開発から部品供給、輸出まで一連の流れを引き受けられる。地の利を産業に変えようとする動きが見て取れます。
空の実装を支える「通信」という土台
忘れてはならないのが、上空を安全に運航するための通信インフラです。ドローンの分野では、KDDIとKDDIスマートドローンが2026年5月に茨城県高萩市で、衛星直接通信サービス「au Starlink Direct」とドローンをつないだ飛行制御に成功しています2。地上と上空では電波環境が異なり、上空で携帯電波が圏外になる課題への対策として、衛星通信を組み合わせる試みです2。
有人・無人を問わず、空を移動手段として使う時代には、通信が途切れない冗長な仕組みが欠かせません。ドローンの遠隔運航で積み上げられている知見は、将来のエアモビリティ全体を支える土台にもなっていくはずです。
まとめ──地方の「早めの準備」が意味するもの
静岡県の担当者は、熱心に取り組む理由として、将来の社会インフラを維持するため早めに準備しておきたいという趣旨を語っています1。ロードマップでは、観光にとどまらず救急医療や災害救助への活用も見込まれています1。交通網の維持という地域の切実な課題に、空という新しい選択肢を重ねようとしているわけです。
こうした動きの土台には、3次元計測や遠隔運航、安全なデータ取得といった、いま現場で磨かれているドローンの技術があります。空の産業が広がるほど、確かな知識と操縦技能を持つ人材の役割は大きくなっていくでしょう。西濃ドローンアカデミーでは、測量やインフラ点検にもつながる基礎から実務までを学べます。次の空の時代を担う一人として、まずは足元の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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