みかん園のドローン防除は難しい?T70P散布で見えた果樹の課題

「水稲では当たり前になったドローン散布を、みかんなどの果樹でもできるのか」——結論から言えば、条件が合えば十分実用段階に入っています。ただし、平らな水田とは違う果樹ならではの難しさもあります。この記事では、大型農業ドローンによる柑橘(みかん)園の防除事例をもとに、果樹でドローンを使うときの設定・薬剤・導入形態・落とし穴を、受講検討者や導入を考える生産者の目線で整理します。
果樹の防除はなぜ水稲より難しいのか
水稲の散布は、平坦で見通しの良い圃場の上を規則的に飛ぶため設定が安定しやすいのが特徴です。一方、みかん園は樹に高さと厚みがあり、隣の木や電線が近く、地形も一様ではありません。
今回参考にした事例では、みかん園での防除は3年目で、機体をT30、T50と更新し、今回はDJI AGRAS T70Pを使用しています1。畝への寄せ幅(畝縮)を最初に狭く設定したところ、横の木にセンサーが反応して高度が上がりすぎ、電線への接近が不安だったため設定を調整したという経緯があり、樹木相手ならではの調整の難しさがうかがえます1。
この機体はビジョンセンサーやレーダーの性能が向上しており、障害物を検知して自動で上昇・回避する挙動が確認されています。レーダーがなければ木に接触していた場面を回避できたという指摘もあります1。ただし、回避機能を過信すると危険な一方で、安全距離や非散布エリアを取りすぎると薬剤がかからない箇所が出てしまう、というジレンマも報告されています1。この「安全とムラのない散布のバランス」こそ、果樹防除の要点だと感じます。
実際の散布設定の一例
参考事例での主な設定は、10アールあたり40L(場所によっては10L)、散布幅は4m前後(3畝分)、速度は最終的に8km/h、粒子はおよそ200マイクロン、飛行高度は樹から4mでした1。作業効率としては、2日目に約1ヘクタールを1時間かからずに終えており、測量を含めて全体で3日間という日程で進められています1。
これは、地上を走行する従来のスピードスプレーヤー(SS)に近い散布を空からできるようになったことを意味します1。真夏の炎天下に重い機械を背負わずに済み、人によっては1週間から10日かかる作業が1〜2日で終わるという効率面のメリットは、高齢化が進む産地では特に大きいでしょう1。
ただし数値はあくまで一例で、樹高や園地の傾斜、薬剤によって最適値は変わります。果樹は上部だけに散布すべきか、均一に撒くべきかといった「飛ばし方」自体がまだ研究途上である点は押さえておきたいところです1。
最大の壁は「薬剤登録」
技術以上に導入を左右するのが、使える薬剤の問題です。事例では、浸透移行性(植物体内に吸収されて効く性質)の薬剤について、殺菌剤はあるものの殺虫剤が少ないことが課題として挙げられています1。みかんはハダニ系の害虫が多く、これらに対応する薬剤が増えればドローンの活躍場面はさらに広がります1。
ハダニ防除は薬剤の付着が必要で、100L散布といった登録が取れないと難しい面があるとされます1。また、40Lの散布量では樹の下側や中心部の葉裏にはかかりにくいものの、浸透移行性の殺菌剤であれば問題なく効く見込みとされています1。現実的には、①3月頃の芽が動く時期の殺菌防除、②7〜8月の大きな防除後の2回目、という年2回程度がドローンに置き換えやすいと整理されています1。
薬剤の登録拡大には1〜2年におよぶ試験とコストが必要で、産地側から需要の声を上げていくことが重要とされています1。裏を返せば、新しい薬剤は当初から航空防除対応で登録されるものが増えており、対応薬剤は今後拡大が見込まれます1。
「1台をどう回すか」という導入設計
コスト面のハードルも見逃せません。機体は安くても200〜300万円、機種によっては500万〜1000万円近くと高価で、個人所有は難しいのが実情です1。そのため、受託作業を行う事業者、集落営農組織、あるいは若手をまとめ役とした組織で1台を共同運用する形が今後の主流になりそうだと見られています1。
これは、資格取得や機体導入を「個人の投資」ではなく「地域や組織の仕組み」として設計する必要があることを示しています。誰が飛ばし、誰が薬剤を準備し、面積をどう管理するか——事前の段取りが効率を大きく左右します。実際、農家側が水や薬剤を準備してくれると作業効率が上がると指摘されています1。
現場で起きる「地味な落とし穴」
最後に、導入前に知っておきたい現場の注意点を2つ紹介します。
ひとつは面積のズレです。生産者が把握している面積と実測面積が食い違うことがあり、事前に飛ばして角や境界線を確認しておくと本番がスムーズになります1。
もうひとつは「泡問題」です。薬剤を勢いよくタンクに入れると泡だらけになり、重量を測るセンサーが狂うことがあります。60L入れたつもりでも飛行時には50L程度になっているケースがあり、散布記録の正確性に影響します1。消泡剤の使用を検討する余地があるとされています1。
記録の正確性は、後から「いつ・どこに・どれだけ撒いたか」を証明するうえで欠かせません。地味ですが、こうした基本の積み重ねが安全で信頼される散布につながります。
まとめ
果樹のドローン防除は、水稲とは違う難しさ(樹の立体構造、薬剤登録、高い機体コスト)を抱えつつも、省力化と高齢化対策の切り札として着実に前進しています。鍵になるのは、機体性能を過信せず、園地に合った設定・薬剤・運用体制を丁寧に組み立てることです。
西濃ドローンアカデミーでは、国家資格の取得だけでなく、こうした現場ごとの飛ばし方や安全管理の考え方も含めて学べます。果樹や水稲など、自分の作物に合わせた運用を一緒に考えたい方は、ぜひ学びの入り口として活用してください。
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