【一之瀬編】土砂崩れで集落が孤立したとき、空から何が見えるのか──大垣市防災訓練の実録
大垣市上石津町一之瀬。川西・殿垣外・川東の3自治会からなるこの地域には、土砂災害警戒区域(土石流・急傾斜地)が指定されています。指定避難所は3地区共通で「いちのせグリーンプラザ」、集合場所は各自治会の集会所です。
この地域の地形をひとことで言えば、「山に囲まれ、出入りする道が限られている」ということです。ハザードマップに描かれた避難経路を見ると、その経路自体が土砂災害警戒区域を通る箇所があります。逃げる道が、崩れうる道でもある。
そして令和8年8月22日、大垣市の災害対策本部運営訓練で、まさにこの状況が想定として使われました。
実際に起きた想定 —— 殿垣外集落の孤立
訓練は「南海トラフ巨大地震で市内が震度6強を観測した後、豪雨災害が発生する」という複合災害の設定でした。ブラインド型といって、参加者に筋書きを知らせず、次々と状況が投げ込まれる方式です。
午前9時18分、殿垣外自治会長からの通報として、こんな情報が本部に入りました。
大雨で近くの道路が土砂崩れで完全に塞がれてしまって、集落が孤立しているんです。他に出られる道もなくて、高齢者も多く住んでいます。
続いて消防からも「徒歩での接近も危険」「高齢者の安否確認が困難」という報告が入ります。地上からは、誰も近づけない。
このとき市が動かしたのが、協定を結んでいる私たち(株式会社ドリームクエスト/西濃ドローンアカデミー)でした。公共安全モバイルで要請が入り、上空からの情報収集が始まります。
平常時の監視が、なぜ重要なのか
訓練で最初に飛んだのは、高度約120mからの広域俯瞰でした。
このとき機体(DJI Matrice 4E)のAI認識機能が、画面上で人1名・車両17台を自動的に検出しました。高度120mからの映像で、路上の人物1名です。肉眼では、まず見落とします。
しかしここで、もう一段大事なことがあります。「17台」という数字は、平常時の一之瀬を知らなければ意味を持ちません。
普段この場所に車が何台あるのか。どの道が通れて、どの斜面が崩れやすいのか。それを知っていて初めて、「いつもと違う」が分かります。災害の直後に初めて飛んでも、見えるのは「今の景色」だけで、「変わったところ」は見えないのです。
平常時から定期的に地域を記録しておくこと。これが、被災後に被害箇所を素早く特定するための、いちばん地味で、いちばん効く準備です。
遠隔ドローンの設置 —— 「駆けつけてから飛ばす」では遅い
今回の訓練で、要請から飛行開始までおよそ20分でした。ただしこれは、私たちの拠点が一之瀬の中にあったからです。
ここに、この地域ならではの事情があります。西濃ドローンアカデミーの校舎(旧一之瀬小学校)は、一之瀬連合の防災備蓄倉庫でもあります。地域の備蓄拠点と、ドローンの離陸拠点が、同じ建物なのです。
しかし本当の災害では、こうはいきません。夜かもしれない。操縦者が市外にいるかもしれない。そもそも、道が崩れていて拠点にたどり着けないかもしれない。孤立した集落を見に行くドローンが、孤立の内側に閉じ込められるという状況も、十分あり得ます。
だからこそ次に必要なのが、完全自動・遠隔運用型のドローン(ドローンドック)です。山間部に無人の格納庫を設置しておき、本部からの操作だけで自動離陸・撮影・帰還する仕組みです。人が現場へ向かう必要がありません。要請から数分で、本部の画面に上空の映像が届きます。
一之瀬のように「出入りする道が限られている」地域ほど、この効果は大きくなります。
山越え飛行の検証 —— 今回できなかったこと
正直に書きます。今回の訓練で、実際に山を越えて殿垣外まで飛んだわけではありません。飛行は施設周辺で実施しました。
山間部の孤立集落へドローンを届けるには、まだ確かめるべきことがあります。
- 電波はどこまで届くか。 山影に入れば機体との通信は途切れます。どの尾根を越えると切れるのか、実測データがありません。
- 往復の時間と電池は足りるか。 集落までの距離と、現地で撮影する時間。バッテリーの残量計算が要ります。
- 戻れなくなったときどうするか。 通信が切れた機体を、どこへ自動帰還させるか。
これが私たちの次の課題です。今回の訓練は、この課題をはっきりさせたという点で、大きな収穫でした。「できます」と言うのは簡単ですが、確かめていないことを確かめたと言うわけにはいきません。
それでも、確かめられたこと
訓練で実際に記録できたことを、数字で残しておきます。
| 高度 | AIが検出したもの |
|---|---|
| 119.8m(広域俯瞰) | 人 1名/車両 17台 |
| 16.3m(低空接近) | 人 5名/車両 1台 |
ここで誤解しやすいのですが、高度120mだから見つけられない、ということはありません。上の表の1名も、高度約120mから自動で検出し、7倍ズームで追尾表示までできています。高度が低いほど検出の精度は上がりますが、高いところからでも、人はちゃんと見つかるのです(2つの数字の違いは、それぞれの画面に写っていた人の数の違いです)。
これは孤立集落の捜索では大きな意味を持ちます。高いところから、広い範囲を、一度に見張れる。そのうえで、気になる場所だけ降りて詳しく確認すればいい。狭い範囲を低空で舐めるように飛び回る必要がありません。
しかも人を検出した瞬間、操縦端末に通知が鳴ります。操縦者が画面を見つめ続けなくても、要救助者の存在に気づける。広い山間部を捜索するとき、この「見落とさない仕組み」が効いてきます。
そして飛行中の映像は、Zoomを通じて市役所4階の災害対策本部へリアルタイムで送られました。本部と現場が同じ画面を見ながら、「この道は通れるか」「あの建物に人はいるか」を会話できる。言葉だけでは絶対に伝わらない情報が、その場で共有されます。
一之瀬にお住まいの方へ
最後に、いちばん大事なことを。
ドローンが飛べるのは、あなたが無事でいてくれた場合です。上空から見つけられるのは、外に出ている人、屋根の上にいる人、避難できた人です。
- 指定避難所は「いちのせグリーンプラザ」です。集合場所は各自治会の集会所を確認してください。
- 避難経路そのものが土砂災害警戒区域を通る箇所があります。大雨のときに通るべきでない道を、事前に把握しておいてください。
- 防災行政無線の放送内容は、テレホンサービス 0570-06-5252 で聞き直せます。
ハザードマップをまだ手元で開いていない方は、今日、一度開いてみてください。災害の日に初めて見る地図は、間に合いません。
本記事は令和8年8月22日に実施された「令和8年度 大垣市災害対策本部運営訓練(孤立地域情報収集訓練)」に、株式会社ドリームクエストが協力機関として参加した際の実録です。記載した高度・検出数はすべて記録画面からの実測値です。
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